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2013.06.26

Art Brut journey 1
ヴェネチア・ビエンナーレ 【ルポ:小林瑞恵】

■第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展
La Biennale di Venezia
the 55th International Art Exhibition
Il Palazzo Enciclopedico / The Encyclopedic Palace

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(写真:ヴェネチア・ビエンナーレ会場入り口)

イタリアのヴェネチアにて第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展が2013年6月1日〜11月24日まで開催されている。(会場はジャルディーニ会場、アルセナーレ会場他市内各所で開催。)美術展には37カ国から150人以上のアーティストが参加し、国別パビリオンには88カ国が参加している。そして、アルセナーレ会場では、総合キューレター マッシミリアーノ・ジオーニ氏が選んだ世界のアーティストの中に澤田真一さん(滋賀県)も選ばれ出展された。
今展では、19世紀以降のアートを中心に、現代アート、アール・ブリュットなどジャンルを越え幅広く紹介されている。芸術のオリンピックと言われる世界的にも著名な展覧会に、澤田さんの作品が選ばれ展示されたことは、快挙であり、勿論、日本のアール・ブリュット作品にとって、初めての出来事である。この出来事がまさか私が生きている時代に起こりえるとはよもや思えず、一目見たくて、6月15日、16日にヴェネチア・ビエンナーレの会場まで足を延ばした。
澤田さんの作品は、独自の円形の空間が設けられたスペースに26点が紹介されていた。

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世界中の作品が入り交わる今展においても、澤田さんの作品はその独自性やクオリティの高さなど、その存在感を放っていた。会場には多くの観覧者が訪れては、ショーケースのギリギリまで顔を近づけ、目を大きくして一つ一つの作品を観覧する光景が印象的だった。日本の美術メディアがこの出来事をどう取り上げ、どう評価するのかも大変楽しみである。
また、私の観たところでは、アール・ブリュット作家は全体で10人程紹介されていたように思う。

日本のアール・ブリュットの躍進はこの10年程の期間である。2004年に滋賀県にボーダレス・アートミュージアムNO-MAが設立され、障害の有無を超えて人が表現する可能性を探求する展覧会が行われるようになり、同ミュージアムによる、作家の発掘・調査も行ってきた事が裾野を広げてきた。
そして2007−2009年にはアール・ブリュット・コレクション(Collection de l'art brut)とボーダレス・アートミュージアムNO-MAとの連携事業が行われたことが、更に飛躍に繋がった。アール・ブリュット・コレクションは、画家のジャン・デュブッフェが蒐集した作品がコレクションされていることで、多くの人に知られている。両国で同時開催された展覧会は、我が国では世界のアール・ブリュット作品と日本のアール・ブリュット作品が並列的に展示された展覧会が開催され、スイスでは、我が国のアール・ブリュット作品の展覧会が行われた。この二つの展覧会は、それぞれに大きな話題を呼んだ。
パリで開催された"アール・ブリュット ジャポネ"展と、現在、ロンドンで開催中の"Art Brut from Japan (Outsider Art from Japan)"展は、アール・ブリュット・コレクションで行われた展覧会が契機となった。そして、これらの経過をふみ、日本のアール・ブリュットは世界に知られるところとなり躍進をとげていったのである。
"Art Brut from Japan (Outsider Art from Japan)"展の日本事務局を務める当法人の方にも現在、作家や作品に対する問い合わせが国内外問わず、多く寄せられている。特に海外からの日本のアール・ブリュットに対する関心の高さは目を見張るものがある。今展を鑑賞して、日本のアール・ブリュットの水準は澤田さんの作品だけに限らず世界から見ても大変に高いところにきていることを実感するとともに、日本のアール・ブリュットを日本の新たな文化財産として誇りをもって大切に扱うべき時がきていることを感じる。4月末に超党派の国会議員による「障害者の芸術文化振興議員連盟」が立ち上がり、日本のアール・ブリュットのナショナルセンター創設構想の話を耳にするが、その必要性をここにきて強く痛感する。

                                             小林瑞恵
                       (ヨッロッパ巡回展Outsider Art from Japan 日本側キューレター/
                                      社会福祉法人愛成会アートディレクター)

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